旅は良いものだ。2023年はよく旅をした。北は北海道から南は沖縄まで、「日本」国内ではあるがそれなりに距離が離れており、立派な「旅」だろう。
辰年になれば龍に代わるが、2023年はウサギに乗って旅することに決めていた。ウサギはすぐに疲れて寝てしまうイメージがあるものだが、ぼくの利用したウサギはみな働き者で、よく移動した。
「へい、何処まで行かれるんで?」
ウサギが前歯を見せてそういうので、ぼくは「北海道まで。札幌へ頼む」と答えた。
ウサギはそれから札幌まで、休まず跳び続けた。台風も近づいていたから揺れるのではないかと不安だったが、乗り心地も悪くなく、1時間半ほどで札幌までついてしまった。
「あなた、ウサギにしては働き者ですね。途中で一泊ぐらいは覚悟していたんだがー」
ぼくがそういうと
「前回のウサギ年まではそういうウサギが残っていたと聞きますけどね。いまわたしたちはみんな真面目にはたらいていますよ。どのウサギも真面目になった。物価も高くなってる、稼がなきゃね。お客さんを下ろしたらまた別のお客さんを乗せて次の場所へ行きますよ」
なるほど、長い前歯は硬い食べ物をかじらずにいたからだな。
「これで硬いものでも食べてください」
ぼくは運賃に少し足してウサギに渡した。
「ヘエ!ありがとうございます。帰ったら落雁、いや和三盆。子どもも喜びます。白い恋人はちょっとやわらけえなあ。トウモロコシの芯は味気ねえ。京都まで足を延ばして八つ橋を買うか。いやこれは楽しみが増えました」
ウサギが跳んで帰っていくのを見ながら「切り株に気をつけて」とその後ろ姿に声をかけた。聞こえたかはわからないけどね。