もうクリスマスも過ぎ、街を華やかにかざったディスプレイがどこに行ったかというと「路地裏」だ。
ぼくはこの時期に都会を旅をしては路地裏に入って、近くで見ると意外と汚れているクリスマスのディスプレイを見るのが好きだ。最近は2か月近く飾られているせいで、排気ガスや粉じん、鳥の糞などで汚れてしまっているものが多い。これを見ると無性に胸が締め付けられるのだ。心地いいぐらいに。
そのガラクタの中にサンタがいた。比喩表現ではなく、サンタそのものだ。白い偽物のひげをつけているがあまり清潔ではなく、まるっきり他の片付けられたガラクタたちと同じ汚れ具合だった。
「あなた、もしかしたらサンタさんではないですか? どうしてここに」
ぼくが声をかけると、こちらを向いたきれいな瞳が見る見るうちに潤み「私は……2023年から来たのだが、帰れなくなってね……」とあきらめたような口調でいう。
「事情は察しましたよ。あなたラッキーですよ、2023年から来た、ってその言葉の意味が分かるひとはほかにいなかったでしょう?」
「きみは、”わかる”のか?」
「覚えていますか? 2023年ではどれがきっかけだったのか……」
サンタはゴミの山のようになっているディスプレイをつまみ上げて言った。
「こういった丸いキラキラしたボールと、ビーズのようなものがつながった三角形を通り抜ける遊びをしていたのだが。クリスマスがとうとう終わってしまったのだ」
「2023年に戻りたい」
ぼくはだいたい理解できたので、ゴミの山からサンタが言う丸いボールとビーズを探し出し、電柱に引っ掛けて「ホール」を作った。
「これで帰れるはずですよ、2023年に」
「本当かね! ああ、確かに行き来してた時と同じ穴が開いている。一か八か行ってみるよ。ありがとう……これはちょっとしたお礼だよ」
サンタの持っていたナップザックからフライドチキンが出てきた。
「チキンとは、ごちそうですね」
ぼくが受け取ると、サンタは三角のホールからすでにあちら側へ移っていた。
「どうやら本当に帰れそうだ。 君はサンタを知っていたんだね」
サンタが言い終わるかどうかといったところでホールは再び力をうしなってふさがった。
「そうですね。ここではぼくぐらいしか知らないでしょうね、サンタのことは」
2023年にはまだいたね。
ぼくは久しぶりに純度100%のチキンを食べることができたのだ。